読んだ論文内容を発表する際に求められている3つのこと 012

 

ゼミにおける論文輪読とその発表

 

多くの大学では三年生の頃からゼミというものが始まる。ゼミの内容は、それを受け持つ教授や出席する学生によって様々だが、多くは学生側からのなんらかの研究や勉強の成果発表という形を取るだろう。その中でもとくに多いのが論文輪読や論文のまとめ発表だと思う。

そこで今回は私自身が多く経験してきたゼミにおける論文発表の際に何が求められているのかを説明したい。

 

「論文を読む → 内容を発表」という機会は多い

ゼミや勉強会において、何らかのテキストを用意し、それを担当者を決めて発表するというスタイルは非常に多い。大きくわけるとその中では輪読と論文発表というふたつのスタイルがある。輪読は分厚い単行本の章ごとに担当者を決めて、何週間かにわたってそれぞれの賞の内容を発表してもらうという形である。いわゆる回し読みである。もうひとつは何らかの大きなテーマを決めて、それに沿った論文を集めてきて(集めるのは教授側がやることも多い)、それぞれの論文を一人が読んで、その内容を発表してもらうというものだ。

統計をとったわけではないが、個人的な印象でいえば多くの文系ではこれらのようなスタイルのゼミが圧倒的多数だと思う。

 

ゼミ発表時に学生がやるべきこと

基本的に学生側がやるべき内容はどちらでも一緒である。

  1. テキストを理解する。
  2. その内容を建設的な形で解説する。

端的にいえばこの二点に集約される。しかしこれがなかなか難しい。私も学部生の頃のレジュメを見れば赤面せずにはいられない。仕方あるまい。何回も試行錯誤を繰り返して徐々にうまくなっていくしかない。

 

逆に言えば、発表の出来が悪かった場合は、その理由は理解が乏しいか、解説の方法が悪かったか、もしくはその両方ということになる。テキストの読み方については前に解説したので、ここでは②の建設的な形での解説について述べたい。

 

多くの場合、発表者はレジュメを作ることになるだろう。レジュメとはフランス語で要約という意味だが、日本のゼミではもっと広い意味で使われており、発表時に参加者全員に配付するハンドアウトを意味する場合が多い。このレジュメの作り方についてはいつか触れたいと考えているが、ここでは深く立ち入らない。

 

 

建設的なゼミ発表のために

 

では、そのレジュメに書くべき発表内容とは何か。

ここで示すべき内容は大きく分けると3点挙げられる。

  1. テキストの概略
  2. テキスト内の重要ポイント
  3. テキストの位置付け

 

それぞれ見ていこう。

テキストの概略

これは簡単である。要するにテキストの内容をコンパクトにまとめれば良いのである。

導入部分に何が書いてあり、分析部分には何が書いてあり、という具合で内容を拾っていけば完成するだろう。論文の構造を理解した者がまとめれば誰がやってもだいたい同じ内容になるだろう。この部分はそれで良い。要領よくまとめればそれで良いのだ。

 

テキスト内の重要ポイント

ここからが発表者の腕の見せ所となる。この論文における重要なポイントは何かを見抜き、提示する必要がある。

論文内には著者が最も主張したいメッセージが込められている。これは絶対に見逃してはいけない。しかしながら、読み方によっては他にも重要なポイントが見つかるかもしれない。そのような点は、自分なりの読み方で見つけたものであり、自分の問題意識にとって重要なものとなる。こういう点を聴衆と共有できるかどうかは、発表の出来に密接に関わってくる。

あまり論文を読み慣れていない者の発表を聴くと、論文のメッセージに直接関係がなく、かつとても重要とは思えない枝葉のような箇所を気にしているような印象を受けることが多い。そのポイントをわざわざ取り上げる際は、それがどのような重要性をもつのかを説得的に提示する必要があるだろう。うまくいけば誰もが気づかなかった論文の重要点や問題点を指摘できるかもしれない。

 

テキストの位置付け

概略とポイントが説明できれば、この論文自体の説明はおおよそ完了したと言える。

しかしその論文をどう評価するかという重大な義務が発表者には残っていることを忘れてはいけない。つまりどのような文脈にその論文を位置づけて理解するのかということである。「発表された時期と当時の研究事情からみた本論文の革新性」のような位置付けもありえるだろうし、「他の領域でやられていることを持ってきた二番煎じ」という理解もできるだろう。「最新の社会理論を効果的に援用しており他の研究にも応用可能」という評価もあるだろうし、「他の研究者と同じ資料を用いて違う解釈を引き出しているが説得力には乏しい」という批判もありえるだろう。ここにこそ発表者のオリジナリティが存分に発揮されるのである。

他の研究との比較を行って、相対的にその論文をみたときにどのように見えるかを効果的に提示する必要がある。この作業をもって始めて論文の発表が可能となるのである。

この位置付け作業がない発表を聴かされると、発表者がこの論文をどう理解して、評価しているのかがよく分からない。もちろん位置付けの仕方が本質とはズレてしまうこともあるだろう。そのような場合は教授や先輩が注意してくれるだろうし、分からないなら訊けばよい。

 

 

おわりに

 

「この論文読んできて発表してよ」と言われる機会は学生にはよくあるだろう。その際に求められていることは国語のテストのような解答ではない。「導入にはこんなことが書いていて、結論にはこんなことが書いています」という発表は、単にまとめただけである。誰でもできる。

 

その論文において著者が最も主張したかったことは何か、発表者が最も興味を持ったポイントは何かを提示する必要がある。そしてさらにどのような文脈の中でどのようにその論文を位置づけるのかを明確に示す必要があるのである。

 

単なるまとめならあなたがやる必要はない。誰がやっても同じなのだから。あなたにしかできない読み方があるはずであり、あなたにしかできない位置付け方があるはずである。私はあなたの発表ではそれを聞きたい。